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裁判経過

平成15年(わ)第7113号大麻取締法違反謡助被告事件
被告人前田耕一
            弁論要旨
                  2004年(平成16年)2月23日
大阪地方裁判所刑事第13部  係
               御中
            頭書事件 被告人 前田耕一 弁護人
        弁護士森川  真好
  被告人前田耕一氏のための弁論の要旨は、つぎのとおりである。
  なお、以下においては、大麻取締法(昭和23年7月10日法律第124
号)を、「大麻法」と、また、麻薬及び向精神薬取締法(昭和28年3月17
日法律第14号)を「麻薬法」と、さらに、覚せい剤取締法(昭和25年12
月28日法律第303号)を「覚せい剤法」と略称する。
               記
1. (はじめに)
  被告人に対する大麻取締法違反謡助事件については、つぎの点から、被告
人は無罪であるし、もちろん、関係する継続中の他事件の被告人(桂川直文)
も、少なくとも本件に関係する限り無罪である。
  また、本件に関係する事件ですでに有罪の宣告を受けた中島裕之も本来は、
無罪であって、すみやかな再審がなされることが望ましいのである。
  (理由)
  @ 大麻取締法第24条の2第1項は、その前提とする同法第3条1項と
あわせて、医療のための例外を設けない点で、違憲無効(法令違憲)であり、
したがって、被告人は無罪である。
  A すくなくとも、本件においては、大麻取締法第24条の2第1項を被
告人らに適用すべきではなく、被告人らに適用される限りで違憲無効であるか
ら、被告人は無罪である。
  B 医療のために大麻を使用させようとして、大麻の授受を謡助した被告
人の行為は、正当行為(刑法第35条)にあたり無罪である。
  以下、順に論ずる。
2. (本件に大麻取締法の違憲性)
               (1)
  大麻取締法第24条の2第1項は、法令として違憲であり、無効である。
  なぜなら、大麻法と他の薬物取締法との比較においては、他の薬物取締法
では医療目的での規制薬物の使用が許されているにもかかわらず、大麻につい
ては、それが医薬品として有用な薬効が認められ、しかも、他の薬物取締法に
比べてその害悪も小さいにもかかわらず、医療目的での使用が許されていない
点において、憲法の定める平等原則(憲法第14条)に違反するからであり、
さらに、医薬品として著明な薬効の認められる大麻について、医療目的での使
用が認められないことは、その大麻による治療を待つ大勢の患者の健康という
重大な権利を却って侵害しているからである。
  そこで、大麻を医薬品として使用することの適否と、大麻を医薬品として
使用する場合の害悪の程度が問題となる。
3. (大麻の医療目的利用)
  まず、「大麻」を医療目的で利用することの合理性を明らかにする。
  大麻法は、禁止薬物取扱に関する他の法律、特に、麻薬及び向精神薬取締
法と比較して論ぜられることが適当である。いずれも、同種の薬効(昂揚感等)
があるがゆえに規制されている薬物に関する規制立法だからである。
  そこで、検討するに、麻薬法は、麻薬施用者(同法第1条18号)は、麻
薬を施用することができることとし、覚せい剤法は、医師らや医師らから指示
を受けた者が覚せい剤を使用することができることとしている(同法第19条
各号)のに対して、大麻法は、医療目的の使用を含めて、その使用を全面的に
禁止されている。
  これは、次のような事情によるもののようである。
  大麻取締法が制定された経緯は、つぎのようなものであった。
  「大麻草に含まれている樹脂等は麻薬と同様な害悪をもっているので、従来
は麻薬として取り締まっていたのでありますが、大麻草を裁判している者は大
体が農業に従事しているのでありまして、今回提出されています麻薬取締法案
の取締りの対象たる医師、歯科医師、薬剤師等は、職業の分野がはなはだしく
異なっています関係上、別個な法律を制定いたしまして、これが取締の完肇を
期する所存であり、本法案を提出する理由と相なって」 (昭和23年6月12
日参議院厚生委員会での趣旨説明)いるから、別種の規制が許されるというの
である。
  すなわち、大麻は、大麻取締法が制定された昭和23年当時、医薬品とし
て使用できることが想定されていなかったので、医薬品として使用するための
                   (2)

例外規定を設けなかったのである。
  ところが、大麻を医薬品として使用することができるか否かについての客
観状況は今日非常に異なってきている。
  今日、大麻草を農業用に生産することは非常にまれになってきている。
  他方、大麻の医薬品としての利用は、1980年代以降、次第に研究され
るようになり(マリファナの科学-弁3 146ページ)、その薬効が認知され
るとともに、大麻研究が許されるようになってきている。
(しかも、この動きはさらにオランダ等での大麻公認にもつながっている。)
  現在では、世界保健機関が大麻の医療的利用のための研究を進めるように
報告書を出しており(WHO報告書-弁9)、さらに、カリフォルニア州、ア
ラスカ、アリゾナ、ネバダ、オレゴン、ワシントンの各州で、大麻を医療用に
使用することが合法化されている(医療大麻を考える会資料(上)74ページ)。
  また、オランダ、ベルギーでは、正当の理由のある限り、大麻に関する罪
は訴追されないことは著明な事実である。
  これら大麻は医療用として有効であるとする事実を認める動きを裏付ける
ように、前科学警察研究所職員であった井上尭子氏も、「大麻は現在、医療用
としては認められていないが、最近、外国では、抗がん剤投与によるむかつき
や嘔吐の治療、あるいは緑内障やぜんそくの治療に利用しようという試みがな
されている」(現代科学1999年9月号-弁4 48ページ)として、大麻の
薬効を認めざるを得なくなっているのが実情である。
  また、現在では、大麻を医薬品として研究しなければならないとする主張
すらも強く出ている(ファルマシァくすりの科学2001年12月号-弁10)。
しかも、この研究によると、大麻を喫煙することが、緑内障を治療する医薬品
としてもっとも有効であるとしているのである(同書1105ページ左段)。
4. (大麻の害悪)
  では、大麻は、これを医薬品として認めることができないほどに、害悪が
強いのであろうか。
  そもそもこの点(害悪)を考えるに、大麻のいわばそれ自体の害悪のみを
考察することは不適当である。なぜなら、大麻以外にも大麻と同種の害悪があ
るとされながら、異なって規制を受けている薬物があるからである。そこで、
それらの薬物(具体的には、麻薬、覚せい剤等)の害悪との相対的な比較の上
で、他の薬物で行われている規制では足りないほどの害悪が大麻にあるか否か
を検討しなければならないのである。
                  (3)
  そこで、検討するに、規制薬物としての依存性や耐性については、メルク
マニュアル(弁2)でも、他の規制薬物を超えるものではない。
  つまり、他の規制薬物程度の規制があれば、大麻は、十分規制ができるし、
却って、大麻による治療を待つ大勢の患者の健康という重大な権利を国家が侵
害しているのである。
5. (大麻規制立法の違憲性)
  以上から考えると、少なくとも医療目的での大麻の利用をすることは、他
の薬物規制に比して著しく不合理である。医療目的での薬効が著明であるのに
比して、その害悪は、医師等医療の専門家にコントロールさせても問題を起こ
さないと考えられるからである。
  そこで、大麻を医療目的で使用することすら禁止した大麻取締法第3条お
よび第4条は、憲法第14条に反して違憲であり、無効であるし、さらに、そ
の規制を前提として刑罰による規制を図る同法第24条の2第1項も違憲無効
であるといわなければならない。
  よって、被告人を大麻取締法第24条の2第1項で処罰することはできず、
同人は無罪である。
6. (大麻規制法を適用することの違憲一適用違憲)
  弁護人としては、当然、以上のように大麻取締法第24条の2第1項は法
令が違憲無効であると考えるが、大麻が濫用されるおそれなしとしないとの判
断の下に、大麻取締法第24条の2第1項のうちには、有効に適用されるべき
部分を有するとする議論もありえないわけではない。
  その場合でも、大麻を医療目的で使用できないとする大麻取締法には、他
の薬物規制法に比して重大な平等違反があるのだから、大麻取締法第24条の
2第1項を、大麻を医療目的で使用するよう幇助した被告人に適用することは
違憲であり、適用は無効であるといわなければならない(適用違憲)。
  ただし、この場合、後述するように医療目的であると認識することだけ
で大麻取締法第24条の2第1項の被告人への適用を違憲無効とするべきか否
かは一つの問題である。
  弁護人としては、後述するように、大麻を治療に使用するときも、医師を
頼んで、適量を使用することに努力すべきであるとはいいうるが、それが不可
能である以上、素人が使用した場合でも、害にならない量・回数であり、科学
的に著明な薬効があると認められる場合に、大麻取締法の適用が違憲となると
考える。
                  (4)
  なぜなら、大麻についても他の規制薬物と同様の規制をするべきであると
しても、現行の大麻取締法の下では大麻を専門的に治療に用いることのできる
医師ら専門家はいないのであるし、実際にも、医師ら専門家に大麻の処方・施
用を依頼できたとしても、それは、医師ら専門家を犯罪に引きずり込む結果に
しかならないからである。
 そこで、医師ら以外の素人が医療目的でなら使用することができるといわ
なければならないが、その際も、大麻には、店頭販売される医薬にはない強い
害悪がありうるという認識があるうえで使用,処方がなされるべきであろうし、
その際には、実際にも害にならない量・固数等であることに配慮していなけれ
ばならないだろう。
  この点を本件について見ると、後に述べるように、被告人は、適法な大麻
製品を取り扱う店舗の経営者として、また、私的に長年に及び大麻を研究して
きた者として、大麻の害悪について専門的な研究者に匹敵する知見があり、そ
のうえで、大麻が著明な効果を有する緑内障について、治療の目的で授受を謡
助したのであり、大麻についての十分な知識の上で、実際には害にならない量
の授受を幇助したのであるから、この被告人に大麻取締法第24条の2第1項
を適用することは、違憲であり無効であるといわなければならない。
  この点からも、被告人は無罪である。
7. (大麻を医療目的で使用することと正当行為)
  以上の第3項、第4項に明らかなとおり、大麻には著明な薬効があり、そ
の薬効は、少なくとも医師等専門家であれば、これを医薬品として安全に試用
することができる内容のものである。
  したがって、医師等他の規制薬物を医療目的に使用することを許された者
が、本件において大麻授受を幇助したのであれば、当然に正当行為となる取扱
でなければならない。
  では、被告人前田耕一や訴外桂川直文のように、他の規制薬物についての
取り扱い資格のないものについては、正当行為とされないのであろうか。
  この場合、もちろん、法律に、使用の方法が定まっているならば、その使
用の方法に従って使用するべきであるし、本件の大麻取締法のように法律に使
用方法が定まっていない場合でも、その規制薬物(大麻)と類似する規制薬物
(麻薬、覚せい剤等)において許された使用方法にできるだけ準じて使用する
べきだ。
  つまり、大麻を治療に使用するときも、医師を頼んで、適量を使用するこ
                  (5)
とに努力すべきであるとはいいうる。
  しかし、大麻について医師を頼むとすれば、その医師を犯罪に巻き込むこ
とになるからおよそ現実的可能性はない。
  また、大麻については、その医療目的での使用が長年にわたって全面禁止
されている関係で、専門の医師がいるわけでもないから、大麻を医療用に用い
ようとする場合は医師に依頼することが適当であるわけでもない。
  そこで、素人が使用した場合でも、害にならない量・回数であり、科学的
に著名な薬効があるなら、正当な治療行為として認められなければならないと
いうことができる。
  この点について、本件を見てみると、後に見るように、被告人は、適法な
大麻製品を取り扱う店舗の経営者として、また、私的に長年に及び大麻を研究
してきた者として、大麻の害悪について専門的な研究者に匹敵する知見があり、
そのうえで、大麻が著明な効果を有する緑内障について、治療の目的で授受を
謂助したのであり、大麻についての十分な知識の上で、実際には害にならない
量の授受を幇助したのであるから、この被告人に大麻取締法第24条の2第1
項を適用することは、正当行為であるといわなければならない。
  この点からも、被告人は無罪である。
8. (事案の概要一犯行にいたる経緯)
  そこで、本件についての被告人前田耕一の本件に至るまでの経緯を簡潔に
検討する。
  被告人は、かねてより大麻に関心が強かったが、そのうち、大麻の医療的
側面に関心をもち、1999年ころには「医療大麻を考える会」を他の会員と
ともに立ち上げるなど、「大麻」を医療のために用いる努力を開始し、さらに、
研究を進めていた(弁1、弁2、弁7)。
  被告人の近隣の劇場を訪問する途中の中島らもこと中島裕之(以下、「中
島らも」という。)に被告人が声をかけたことから、被告人と中島らもの両名
は、互いに知己となったが、その後、平成14年12月ころ、中島らもから被
告人に架電があり、折り返しの電話をした後、ファックスで要件が送られてき
た。その内容は、緑内障で困っている、眼圧が高い、失明するかもしれないと
いうものであった。
  中島らものファックスを受けて、被告人は、年来、大麻の医療のための用
途について努力しており、しかも、作家としての経験もあって、緑内障によっ
て失明する危険が作家にとってどのくらい痛手となるかを知悉していた被告人
としては、なんとか力になりたいと考えるに至った。
                  (6)  
そこで、このファックス連絡の翌日か翌々日に、被告人は、中島らもに架
電し、平成15年1月5日ころに、大阪で面会することを約し、その際に、大
麻を渡すことができるかもしれないと約したものである。
  そのうえで、被告人は、桂川に連絡をとり、大阪で中島らもと面会し、中
島らもの緑内障の治療のために、大麻を渡すことを依頼し、その快諾を得た。
  その後は、平成15年1月5目に、被告人、桂川、中島らもの3名は、大
阪の料理屋で面会し、桂川が中島らもの緑内障の治療のために大麻を渡すこと
を援助しようと、中島らもが桂川に渡すはずの10万円程度のカンパを中島ら
もに代わって、桂川に渡したのである。
  これらを見るに、被告人の援助行為は、中島らもの緑内障を治療するため
という目的以外には、何らの目的を有しておらず、しかも、被告人の大麻に対
する知見は、海外の専門的研究者と同等のものといってよいのであるから、そ
の援助行為が、大麻の害悪を生ぜしめる可能性はおよそなかったのである。
  すなわち、被告人の行為を、大麻取締法によって処罰することは、そもそ
も著明な薬効を有する大麻の治療目的の使用をおよそ禁圧することになるので
あって、到底許されるものではないのである。
                                 以上
                 (7)

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